陽だまり(プロローグ)

気付けば淡い光の中で泣いていたのは自分だけで、何も無い空間のなか佇んでいた。
手に残る微かな暖かさに何故かまた涙がこみ上げてくる。

泣いている理由も、ぽっかり失ったこの胸にある喪失した感情も、大事であった、大切であったということ以外 分からない。

よくあるお話で、一般的に浮かぶ記憶喪失の感覚、のイメージ。そうかこれは確かに切ないものだ――と自身の想像のなかの記憶喪失と重なる感覚に、やはり自分が合っていたという得意げな気持ちと、さてでは何も覚えていない自分はこの次どうしたら良いだろうかという問題に首を傾げる。

そこで「首という概念があるのか」、ならば。と先程の手に感じた懐かしいような微かな暖かさを思い出し「手を」見てみる。
――感覚はあるようだ。
だが視認できない。
もう微かであった暖かさすらなくなっていた。
感じられるのは自分で動かしているという意識のみ。
「不思議。」
と近くで音の連なりを感じて初めて驚いた。
そしてそれが聞き慣れた自身の声だと認識できたところでまた疑問が増えてしまった。
喉が存在すべき部分へ手を伸ばす。
なだらかとは言いきれない少し出張った膨らみにまた言葉が出る。
「のど……ぼとけ?」
感覚だけではそれがどの程度の「こぶ」であるかは検討つかないが女だとは言いきれないと判断できた。

女……か。

このまっさらな空間の中、更には自身の身体が存在していることを視覚で認識できないなかでは無意味なことだと分かってはいるが、ふと、下を見てみる。
本来、標準であればそこには柔らかく滑らかな2つの膨らみか、どこまでも真っ直ぐな絶壁かが見えるはずだが……。

まぁやはり何も確認出来なかった。

「手」を胸部にそっと触れてみる。

……どちらとも取れる微かな膨らみ。
ペチャかムキムキか。
そこまで考えたくないものだ。

それに関しては思考を放棄することにした。
何も考えずに揉みしだく。
と、そこで突然声が響いた。

「ーーーーーー!!!」